KEY TAKEAWAYS
この記事でわかること
- 直接請求は、有権者が署名を集めて自治体に行動を求める制度(地方自治法74条〜88条)。住民自治を具体化したしくみ。
- 条例の制定改廃と事務監査は有権者の1/50以上、議会の解散と解職は原則1/3以上の署名が必要。
- 請求先は、条例=首長、事務監査=監査委員、解散・議員と首長の解職=選挙管理委員会、副知事などの解職=首長。
- 最後に決めるのは、解散・議員と首長の解職=住民投票の過半数、副知事などの解職=議会の特別多数、条例=議会。
この記事の目次
直接請求とは?なぜ住民に認められている?
直接請求は、自治体の選挙権を持つ住民が一定数の署名を集め、条例を作るよう求めたり、議会の解散や首長の解職(リコール)を求めたりできる制度です。地方自治法の第2編第5章に定めがあります。
ふだんの自治体運営は、選挙で選んだ首長と議員に任せる間接民主制です。ただ、選んだ代表が住民の意思から大きく離れたときに、次の選挙まで待つしかないのでは困ります。そこで、住民が直接手続きを動かせる道を法律で用意しています。憲法92条の「地方自治の本旨」のうち、住民が地域のことを自分で決める住民自治を具体化した制度と説明されます。
国政には、国会議員をリコールする制度や、有権者の署名で法律案を国会に出させる制度はありません。住民と行政の距離が近い地方自治ならではのしくみだと押さえておくと、「国政にも同じ制度がある」という誤りの選択肢を見抜けます。
直接請求の一覧表:署名数・請求先・その後の手続き
| 請求の種類 | 必要な署名 | 請求先 | 請求後の手続き | 条文 |
|---|---|---|---|---|
| 条例の制定・改廃 | 有権者の1/50以上 | 首長 | 首長は受理から20日以内に議会を招集し、意見を付けて付議。可否は議会が決める | 74条 |
| 事務の監査 | 有権者の1/50以上 | 監査委員 | 監査委員が監査し、結果を代表者に送付・公表し、議会・首長などに提出 | 75条 |
| 議会の解散 | 原則1/3以上 | 選挙管理委員会 | 住民投票にかけ、過半数の同意で解散 | 76条・78条 |
| 議員の解職 | 原則1/3以上(その選挙区の有権者) | 選挙管理委員会 | その選挙区の住民投票で過半数の同意があれば失職 | 80条・83条 |
| 首長の解職 | 原則1/3以上 | 選挙管理委員会 | 住民投票で過半数の同意があれば失職 | 81条・83条 |
| 副知事・副市町村長、指定都市の総合区長、選挙管理委員、監査委員、公安委員会の委員の解職 | 原則1/3以上 | 首長 | 議会に付議。議員の2/3以上が出席し、その3/4以上が同意すれば失職 | 86条・87条 |
「原則1/3」としているのは、有権者が40万人を超える自治体では、超えた部分について1/6・1/8で数える緩和があるためです。計算の手順は直接請求の署名数の計算で例題つきで説明しています。
署名を集められる期間も決まっています。地方自治法施行令92条により、都道府県と指定都市では2か月以内、それ以外の市町村では1か月以内です。集めた署名簿は市町村の選挙管理委員会が20日以内に審査し、7日間の縦覧(関係人が見られる期間)を経て有効署名数が確定します(地方自治法74条の2)。
条例の制定・改廃は、請求すれば必ず実現する?
有権者の50分の1以上の署名で、代表者が首長に請求します。首長は請求の要旨を直ちに公表し、受理した日から20日以内に議会を招集して、自分の意見を付けて議会にかけます。議会は審議にあたり、代表者に意見を述べる機会を与えなければなりません。
ここで押さえたいのは、請求しても条例が必ずできるわけではない点です。可決か否決かを決めるのは議会で、否決されても住民投票に進むことはありません。「条例の制定請求は住民投票にかけられる」という選択肢は誤りです。
また、地方税の賦課徴収と、分担金・使用料・手数料の徴収に関する条例は請求の対象外です(74条1項のかっこ書き)。「住民税を下げる条例を直接請求で求める」ことはできません。住民の負担を署名だけで動かすと財政運営が不安定になるため、と説明されることが多い規定です。
事務監査請求と住民監査請求はどう違う?
事務監査請求は、有権者の50分の1以上の署名で監査委員に自治体の事務の監査を求める直接請求です。名前がよく似た住民監査請求(地方自治法242条)は直接請求ではありません。取り違えを防ぐため、違いを表にします。
| 比べる点 | 事務監査請求 | 住民監査請求 |
|---|---|---|
| 請求できる人 | 有権者の1/50以上の連署 | その自治体の住民なら1人でも可 |
| 対象 | 自治体の事務の執行全般 | 公金の支出など財務会計上の行為・怠る事実 |
| 請求先 | 監査委員 | 監査委員 |
| その後 | 監査結果の公表・報告 | 結果に不服なら住民訴訟を起こせる |
住民訴訟までの流れは監査委員と外部監査で詳しく扱っています。
解散・解職の請求は、誰がどう決める?
議会の解散、議員の解職、首長の解職は、いずれも原則として有権者の3分の1以上の署名を集め、選挙管理委員会に請求します。選挙管理委員会は住民投票を行い、過半数の同意があれば議会は解散し、議員や首長は職を失います。選挙で選ばれた人を辞めさせるので、最後も住民の投票で決めるという筋の通ったしくみです。
一方、副知事・副市町村長、選挙管理委員、監査委員などは、議会の選挙や同意を経て就任する人たちです。そのため請求先は首長で、最後は議会が決めます。議員の3分の2以上が出席し、その4分の3以上が同意すると失職します。
請求の乱発を防ぐため、請求できない期間もあります。
| 請求 | 請求できない期間 |
|---|---|
| 議会の解散 | 一般選挙の日から1年間、解散の住民投票の日から1年間 |
| 議員・首長の解職 | 就職の日から1年間、解職の住民投票の日から1年間(無投票当選の場合は就職から1年以内でも請求できる) |
| 副知事・副市町村長、指定都市の総合区長の解職 | 就職の日から1年間、議会の議決の日から1年間 |
| 選挙管理委員・監査委員・公安委員会の委員の解職 | 就職の日から6か月間、議会の議決の日から6か月間 |
リコールの実際の手続きや、実例の調べ方はリコール(解職請求)とはにまとめています。
直接請求の覚え方:3つの手順
- 重さで2つに分ける:「人を辞めさせる・議会をなくす」ものは重いので原則1/3、「条例・監査」は軽いので1/50。
- 請求先は「その次に動く人」で考える:条例は議会に付議する首長、監査は監査委員、住民投票が必要なものは投票を管理する選挙管理委員会、議会の議決が必要な副知事などの解職は議案を出す首長。
- 選ばれ方と辞めさせ方をセットにする:住民の選挙で選ばれた人(議員・首長)は住民投票、議会を経て就任した人(副知事など)は議会の議決。
この3手順で考えると、表を丸暗記しなくても、請求先と最後に決める機関を筋道立てて導けます。覚えたら、時間を計って4択で使えるかを確かめましょう。無料お試し10問は登録不要で、社会情勢を含む4分野を本番と同じ1問1分のペースで試せます。
練習問題:直接請求を4択で確かめる
当サイトのオリジナル問題です。1問1分を目安に解いてみてください。
問1 地方自治法に定める直接請求の組合せとして、正しいものはどれか。
- 議会の解散請求 ― 有権者の1/50以上 ― 首長
- 事務の監査請求 ― 有権者の1/50以上 ― 監査委員
- 首長の解職請求 ― 原則として有権者の1/3以上 ― 議会の議長
- 副市町村長の解職請求 ― 原則として有権者の1/3以上 ― 選挙管理委員会
| 選択肢 | 正誤 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 誤り | 議会の解散は原則1/3以上で、請求先は選挙管理委員会(76条)。1/50・首長は条例の制定改廃の組合せ |
| 2 | 正しい | 事務監査は1/50以上の署名で監査委員に請求する |
| 3 | 誤り | 署名数は正しいが、請求先は選挙管理委員会(81条)。議長は直接請求の請求先ではない |
| 4 | 誤り | 署名数は正しいが、副市町村長の解職の請求先は首長(86条)。最後は議会の特別多数で決まる |
練習問題2:請求のあとの手続き
問2 直接請求のあとの手続きに関する記述として、正しいものはどれか。
- 条例の制定請求があると、首長は住民投票を行い、過半数の同意があれば条例が成立する。
- 議会の解散請求があると、選挙管理委員会は住民投票を行い、過半数の同意があれば議会は解散する。
- 首長の解職請求があると、議会で議員の3分の2以上が出席し、その4分の3以上が同意すれば首長は失職する。
- 監査委員の解職請求があると、選挙管理委員会が住民投票を行う。
| 選択肢 | 正誤 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 誤り | 条例の制定改廃は、首長が意見を付けて議会に付議し、議会が決める(74条3項)。住民投票は行わない |
| 2 | 正しい | 解散の請求は住民投票に付され、過半数の同意で解散する |
| 3 | 誤り | 首長の解職は住民投票で過半数の同意により失職(83条)。3分の2出席・4分の3同意は副知事などの解職の要件 |
| 4 | 誤り | 監査委員の解職は首長に請求し、議会の特別多数で決まる(86条・87条)。住民投票は行わない |
Q & A
よくある質問
Q.直接請求の署名は誰でもできますか?+
署名できるのは、その自治体の議会の議員と首長の選挙権を持ち、選挙人名簿に登録されている人です。公職選挙法9条により、日本国民で満18歳以上、引き続き3か月以上その市町村に住所があることなどが要件になります。
Q.条例の制定を請求すれば、その条例はできますか?+
できるとは限りません。首長は20日以内に議会を招集して付議しますが、可決するか否決するかは議会が決めます。
Q.税金を下げる条例を直接請求できますか?+
できません。地方税の賦課徴収と、分担金・使用料・手数料の徴収に関する条例は、条例の制定改廃請求の対象から除かれています(地方自治法74条1項)。
Q.国会議員もリコールできますか?+
できません。解職請求(リコール)は地方自治法が定める地方の制度で、国会議員を対象とする同様の制度はありません。