KEY TAKEAWAYS
この記事でわかること
- 国民審査は、最高裁判所の裁判官がその職にふさわしいかを国民が直接判断する制度で、参政権の一つです(憲法79条)。
- 時期は「任命後初めての衆議院議員総選挙」と、その後「10年を経過した後の総選挙」ごと。参議院選挙のときには行われません。
- 罷免すべき裁判官に×を書き、罷免を可とする票が可としない票より多ければ罷免されます。これまで罷免された裁判官はいません。
- 2022年に最高裁が在外国民の審査を認めない状態を違憲と判断し、同年に国民審査法が改正されて在外投票ができるようになりました。
この記事の目次
国民審査とは何か(対象と根拠)
最高裁判所は、長官1人と判事14人の計15人の裁判官で構成されます。長官は内閣の指名にもとづいて天皇が任命し、判事は内閣が任命します。国民は裁判官を選挙で選べませんが、任命された後に国民審査でその適否を判断できます。
憲法79条2項が国民審査を定め、手続きは最高裁判所裁判官国民審査法で決められています。国民が公務員を罷免する権利(15条)を具体化した参政権の一つとして分類されます(人権の分類)。
対象は最高裁判所の裁判官だけです。高等裁判所や地方裁判所などの下級裁判所の裁判官は対象ではありません。
国民審査はいつ行われるか
国民審査は単独の日程では行われず、衆議院議員総選挙の投票日に同時に行われます。
| タイミング | 内容 |
|---|---|
| 1回目 | 任命された後、初めて行われる衆議院議員総選挙のとき |
| 2回目以降 | 1回目の審査から10年を経過した後、初めて行われる衆議院議員総選挙のとき(以後も同様) |
最高裁判所の裁判官は裁判所法で70歳が定年とされ、任命時の年齢によっては2回目の審査を受ける前に退官します。「5年ごと」「参院選のとき」といった記述は誤りです。
投票方法と罷免される条件
投票用紙には審査される裁判官の名前が並び、罷免すべきだと思う裁判官の欄に「×」を書きます。何も書かない欄は「罷免を可としない」票として扱われます。
憲法79条3項は、投票者の多数が罷免を可とするとき、その裁判官は罷免されると定めています。国民審査法では、罷免を可とする票が可としない票より多い場合に罷免されるとしています。ただし、投票の総数が審査人名簿の登録者の総数の100分の1に達しないときは罷免されません。
- 衆議院議員総選挙の告示と同時期に、審査に付される裁判官が告示される。
- 投票日に、選挙の投票とは別の用紙で国民審査に投票する。
- 罷免すべき裁判官の欄にだけ×を書く(○や他の記号は書かない)。
- 開票し、裁判官ごとに「罷免を可とする票」と「可としない票」を比べる。
在外国民の審査(2022年の違憲判決と法改正)
以前の国民審査法には、海外に住む日本人(在外国民)が審査に投票するしくみがありませんでした。衆議院選挙では在外投票ができるのに、同じ日の国民審査には投票できない状態でした。
最高裁判所は2022年5月25日の大法廷判決で、在外国民に審査権の行使をまったく認めていないことは憲法15条1項、79条2項・3項に違反すると判断し、国会が立法措置をとらなかったことについて国の賠償責任も認めました。
これを受けて2022年11月に改正国民審査法が公布され(2023年2月施行)、在外選挙人名簿に登録された人も在外投票で国民審査に参加できるようになりました。投票用紙には裁判官の氏名の代わりに告示順を示す番号を使う工夫がされています。この判決は違憲判決一覧の2022年の欄にあたります。
よくある取り違えと正しい内容
国民審査の問題は、数字や対象を入れ替えた記述で誤りが作られやすい論点です。左の列を見て右の列を言えるようにしておきましょう。
| 問われる点 | 正しい内容 | よくある誤り |
|---|---|---|
| 対象 | 最高裁判所の裁判官(長官を含む15人) | 高等裁判所・地方裁判所の裁判官も対象 |
| 時期 | 任命後初の衆議院議員総選挙のとき | 参議院議員通常選挙のとき |
| 再審査 | その後10年を経過した後の総選挙のとき | 5年ごと・6年ごと |
| 投票方法 | 罷免すべき裁判官に×を書く | 信任する裁判官に○を書く |
| 罷免の条件 | 罷免を可とする票が可としない票より多い | 有権者の過半数が罷免を可とする |
| 実例 | 罷免された裁判官はいない | 過去に数人が罷免された |
| 下級裁判所の裁判官 | 国民審査ではなく弾劾裁判(64条)などで罷免される場合がある | 国民審査で罷免される |
国民審査は1949年の総選挙から行われていますが、これまでに罷免された裁判官は一人もいません。このため形骸化しているという指摘もあり、制度のあり方が議論されることがあります。
国民審査・弾劾裁判・裁判員の違い
司法に関わる国民・国会の制度は、名前が似ていて混同しやすいところです。誰が・誰に対して・何をするかで分けます。
| 制度 | 誰が | 対象 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 国民審査 | 国民(衆院選の有権者) | 最高裁判所の裁判官 | 憲法79条 |
| 弾劾裁判 | 国会に置かれる弾劾裁判所(両議院の議員で構成) | 罷免の訴追を受けたすべての裁判官 | 憲法64条 |
| 裁判員制度 | くじで選ばれた18歳以上の国民 | 重大な刑事事件の第一審の審理 | 裁判員法 |
| 違憲審査 | すべての裁判所(最終判断は最高裁) | 法律・命令・処分など | 憲法81条 |
裁判官の身分は手厚く保障されており(78条)、罷免されるのは、心身の故障で職務がとれないと裁判で決定された場合、弾劾裁判による場合、最高裁裁判官では国民審査による場合に限られます。
独自の練習問題:国民審査の数字と対象
当サイトが書き下ろした4択問題です。選択肢は「ア正・イ正/ア正・イ誤/ア誤・イ正/ア誤・イ誤」の順です。
- 問1 次のア・イの正誤の組合せとして正しいものはどれか。ア:最高裁判所裁判官の国民審査は、衆議院議員総選挙と参議院議員通常選挙のいずれの際にも行われる。イ:国民審査では、罷免を可とする票が可としない票より多い裁判官は罷免される。(1)ア正・イ正(2)ア正・イ誤(3)ア誤・イ正(4)ア誤・イ誤
- 問2 次のア・イの正誤の組合せとして正しいものはどれか。ア:国民審査の対象には、最高裁判所の裁判官のほか、高等裁判所の長官も含まれる。イ:海外に住む日本人が国民審査に投票できない状態について、最高裁は2022年に違憲と判断した。(1)ア正・イ正(2)ア正・イ誤(3)ア誤・イ正(4)ア誤・イ誤
| 問 | 正解 | 各選択肢が誤りになる理由 |
|---|---|---|
| 問1 | (3)ア誤・イ正 | 国民審査は衆議院議員総選挙のときだけなのでアは誤り。イは国民審査法の罷免の条件どおり。(1)(2)はアを正、(4)はイを誤とした点で誤り |
| 問2 | (3)ア誤・イ正 | 対象は最高裁の裁判官だけなのでアは誤り。イは2022年5月25日の大法廷判決の内容どおり。(1)(2)はアを正、(4)はイを誤とした点で誤り |
【時短のコツ】国民審査の記述は「衆院・10年・×・罷免例なし」の4語に当てはめて読みます。記述の中にこの4点と違う語(参院、5年、○、罷免例あり)があれば、その時点で誤りと判断できます。
つまずき別:次に確認すること
| つまずき | 確認する操作 | 進む記事 |
|---|---|---|
| 国民審査と裁判員制度を混同する | 国民審査=裁判官を審査、裁判員=事件の裁判に参加と書き分ける | 裁判員制度 |
| 在外選挙権(2005年)と在外国民審査(2022年)を取り違える | 違憲判決の年表で2つの年を並べる | 違憲判決一覧 |
| 衆議院の解散と総選挙の関係があいまい | 解散から40日以内に総選挙、という流れを確認する | 内閣不信任と解散 |
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Q & A
よくある質問
Q.国民審査で白紙のまま投票するとどうなりますか?+
何も書かなかった裁判官については「罷免を可としない」票として数えられます。罷免したい裁判官にだけ×をつける方式です。
Q.下級裁判所の裁判官を辞めさせる方法はありますか?+
国民審査の対象ではありませんが、国会に設置される弾劾裁判所による罷免(64条)などの制度があります。弾劾裁判所は最高裁の裁判官も対象です。
Q.最高裁裁判官の定年は何歳ですか?+
裁判所法で70歳と定められています。憲法79条5項は「法律の定める年齢に達した時に退官する」としています。
Q.海外に住んでいても国民審査に投票できますか?+
2023年2月に施行された改正国民審査法により、在外選挙人名簿に登録されていれば在外投票ができます。手続きは外務省や在外公館の案内で確認してください。
Q.一度の国民審査で何人が対象になりますか?+
決まった人数はありません。前回の総選挙の後に任命された裁判官と、1回目の審査から10年を経過した裁判官が対象になるため、選挙ごとに人数が変わります。投票用紙に並ぶ名前の数も毎回異なります。